ご相談者のAさんから、こんなお話を伺ったことがあります。
「私の夫は、不倫相手と別れて、二度と不倫はしないと約束してくれました。
でも、私はまだ彼を許すことができません。
彼が何かを話しかけてきたり、家事を手伝ってくれても、素直に笑顔を見せることができないのです。
彼のことを信じたい気持ちはありますが、完全に信じることができません。
時々、当時の苦しさや悲しみを思い出してしまって、とても不安な気持ちになります。
まだ女性とLINEでつながっているのではないか?
隠れて会っているのではないか?
今からでも遅くない。慰謝料を取ってやろうか、など不安と怒りが頭の中に渦巻き、妄想が渦巻く瞬間があります。
こんなことで、私たちはほんとうに、仲のよかったころに戻れるのでしょうか」
これは、多くの方が同様に感じられることの一つです。
そしてこれが、不倫を乗り越えていくうえでの一番大きな障害ともいえます。
Aさんは以下のようにもおっしゃっています。
「たぶん、夫は反省していると思うし、今はもう、相手女性と会ってないと思います。
でも、当時の夫が嘘をつき、相手女性と隠れて会い、私には見せない笑顔や愛情を示していたのかと思うと、それが今も許せないし、そんな彼を信じられないです。
彼はもう「終わったこと」とばかりに涼しい顔をしているけど、こっちはフラッシュバックだって治まらないし、突然息が苦しくなったり、動悸が激しくなって、苦しんでいるのは私ばかり……これで終わりにされるのは、なんだか納得いかないですよね」
……おっしゃるとおりです。
そんな思いにかられてしまうことも、無理のないことだと思います。
フラッシュバックの辛さから、ついご主人に気持ちをぶつけてしまうことも無理のないことです。
私はそれ自体、決して悪いことではないし、ある意味、必要なことだと思っています。
あなたが苦しんでいる姿を見せないと、ご主人はあなたが平気なんだと誤解してしまうかもしれません。
苦しい時は苦しい、辛いときは辛いと言ってよいのです。
そして、そのときご主人が見せる反応には、大きく分けて二つのパターンがあります。
ひとつは、「またか」とばかりにうんざり、逆ギレ、冷たく突き放す、といった反応。
もうひとつは、あなたの気持ちを受け止め、できることをやり続けようとする反応。
まるで真逆の反応ですが、これはご主人が、あなたの言葉や態度をどう受け止めているかの差です。
前者は、「そうやって俺を責めたいんだろ」「まだ俺を許せないんだろ」など、いわば『攻撃されている』と思っています。
後者は、あなたの言動が不安からきていることを理解していて、『安心させたい』と思っています。
ご主人が、このどちらに意識を向けるかによって、その後のあなたの心情は大きく変わってくるでしょう。
実際、夫婦コンサルティングをさせていただくなかで、ご主人が奥様のフラッシュバックに対して、『今でも僕を許せず、責めたいんですよね』とおっしゃることがあります。
私が、「奥様はご主人が憎いわけでも、責めたいわけでもなく、ただ不安で仕方がないだけです。フラッシュバックも、発作的になってしまうもので、ご主人に当てつけたものではないのですよ。そういうときは、どうか奥様の気持ちを受け止めて、そばに寄り添ってあげてください」とお伝えすると、それだけでも、妻に対する誤解が解けて、ご主人の態度が一変することがよくあります。
一方、妻のほうも、夫の誠意や愛情を感じるなかで、少しずつ心の傷が癒えていって、不安も治まり、フラッシュバックもなくなっていくようになります。
ただし、これは一朝一夕にできることではありません。
わたしはいつも、『夫婦関係の修復は、おふたりの共同作業です』ということを申し上げています。
ご夫婦がお互いに、相手がこんな風に思ってくれていたとか、想像以上に辛い思いをしていたことが見えてきて、これまで気づけなかったことに気づき、わからなかったことがわかり、今まで以上にお二人が理解を深めていくなかで、「雨降って地固まる」のごとく、夫婦の関係が不倫の苦しみを乗り越えて、今まで以上に強まっていくのです。