寝室に入ったとたん、全身の血が逆流したようになり、体中がガクガクして立っていられませんでした。
崩れ落ちるように座り込みました。
必死で堪えようとしましたが、涙を抑えることができませんでした。
夫が不倫していることは知ってます。とっくの前に。
でも、あんなふうに目の前に彼女のLINEが飛び込んできたら、とても平常心ではいられません。
私は震えながら、ベッドに横になりましたが、とても眠れませんでした。
しばらくして、寝室のドアがあき、私のベッドに夫が入ってきました。
私は寝たふりをしましたが、私の身体に夫の手が伸びてきたとたん、反射的に「ちょっと、やめてよ!」と声が出ました。
でも、夫は怯む様子さえなく、それどころか私の意志などまったくの無視でした。
優しさも愛情も感じられない。
そのくせ、『相手をしてやっている感』が伝わってきて、屈辱感と怒りがどうにも止まりませんでした。
(なんなのこれ、罪滅ぼしのつもり?)
(私がスネてると思って、機嫌を取ってるの?)
(それとも、これで見逃してくれ、許してくれ、見なかったことにしてくれと?)
冗談じゃない。
そう思った瞬間、好き勝手に暴れまわる夫の手を払いのけていました。
『なんのつもり?不倫した手で私に触らないでよ!』
夫は一瞬固まりました。
それから、怒りの表情を浮かべて、黙ったまま身を起こし、私から離れました。
寝室を出ていくとき、ドアを乱暴に閉める音が、部屋に響きました。
『もう無理。別れよう』
頭の中に、私自身の言葉が響きました。
私の心にスイッチが入った瞬間でした。』
翌朝、夫は一言も口を利かず、私を一瞥しただけで、黙ったまま仕事に行きました。
それは私にとっても好都合でした。
今さら謝られても、私の気持ちは変わらない。
正直、一晩でこれほど自分の気持ちが変わるとは思っていませんでした。
ずっと悩んでいた離婚も、この苦しみから解放されることと、これからの人生を夫に振り回されずに生きていけることを思うと、かえって楽しみに感じてきました。
離婚の前に、いろいろ準備をしていかなくてはいけない。
考えなくてはいけないことも、山ほどあります。
その一つ一つに思いを巡らしながら、紙に書きとめていきました。
いつまでに離婚するか計画を立て、それまでに住むところを探さなくてはいけない。
夫にも離婚の意志をしっかり伝えて、話し合いが無理なら弁護士を入れる。
財産分与や慰謝料もしっかり求めよう。
子どもたちは成人しているし、それぞれ自立しているのは幸いだけど、なるべく心配させないようにしなきゃ。
これからは、離婚後の私自身のために、準備を進めていこう。』
この方はたびたびご相談いただいていたのですが、それまではなんとか離婚を回避したいという意向でした。
しかし、この日を境にして、『離婚』に完全に気持ちが切り替わったようでした。
耐えているときには、理不尽さにも目をつぶり、自分の心にフタをして現状を維持しようと考えてしまいますが、そこから一歩踏み出たとき、本当の自分自身の気持ちに気づくことがあります。
心が切り替わった時。それは、悩みから解放されて、新しいあなたの未来を感じる瞬間でもあります。
離婚もまた、その新しい未来に通じる道となることもあるのです。