浮気事例・突然、離婚を切り出してきた夫④

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後日、尾崎さんが離婚理由をご主人の浮気によるものだと主張すると、ご主人はひどく怒り、『それは違うだろ、お前のせいで俺は別な女のところに行ったんだ』とか『おまえが俺とセックスを拒んで夫婦仲がダメなったのが理由じゃないか』などと言い、離婚はするが慰謝料の支払いは断固拒否する姿勢を示してきました。

また財産分与についても『専業主婦でロクに働いてこなかったおまえに渡す金はない』と一切応じない言動が見られ、夫婦間での話し合いはほぼ不可能と判断したため、協議離婚は前提にしつつも、弁護士を入れて、ご主人と弁護士間で話をつけてもらうようにご提案させていただきました。

尾崎さんは後のご相談で次のようにおっしゃっています。

『牧口さんにアドバイスいただいたとおり、ボイスレコーダーで録音したことで、主人の言葉を証拠にできました。それで弁護士さんに相談したら「これは完全にご主人が有責なのは確かですし、しっかり責任を求めましょう」と言ってもらえました。弁護士さんが入ったことで、主人はしぶしぶんながらも話し合いに応じ、慰謝料や財産分与についても同意してもらえました。ただ私たちには、それほど財産といえるものはありませんし、主人のことですから慰謝料というのもさしたる額ではないでしょうから、自宅は売却して、そこから私の取り分は確保し、あとは年金分割などもしっかり求めたいと思っています。養育費については、幸い、子供たちはもうすぐ大学を卒業しますし、成人しているので大丈夫です。

牧口さんにはじめてご相談させていただいたときには、本当に自分のことが妻としても女としてもダメだと思っていて、自己嫌悪の気持ちでいっぱいだったのですが、おかげさまで、最近はすこしずつ自信を取り戻していて、精神的にも、前よりも強くなれたように思います。

今になってみると、主人のことにどうしてあんなに執着していたのか、自分でも不思議なくらいに、前向きに離婚を受け止めています

【状況解説】

はじめて尾崎さんがお電話くださっとき、その声はとても弱弱しく、疲れ果てたようなご様子がありました。

浮気という絶望の中で、不安を抱えてどうしていいかわからず、自分を責める言葉ばかりを口にしておられました。

でも、お話を伺っていく中で、ご主人の主張が正当性のない理不尽なものであるばかりでなく、ご主人の浮気自体も尾崎さんが原因ではない、ということが確信できましたので、そのことをしっかりとご説明させていただき、『離婚するもしないも、尾崎さん自身で決めてよいのですよ』とお伝えすると、ずいぶんと気持ちが楽になったご様子でした。

その後、尾崎さんが離婚を決心されるまでには、数か月の時間がかかりましたが、逆にじっくりと考えられたことにより、ご自分の権利と尊厳に思いを留めつつ、冷静に状況を受け止め、前向きに考えられるように変わっていかれたようでした。

ご主人の主張が身勝手であったことは、むしろ弁護士を依頼するきっかけとなり、それにより慰謝料や財産分与等の『妻としての権利』を守れたこと、また尾崎さん自身が、これまで感じていた迷いや恐れを払拭して、毅然とした強い意思をもってご主人と対峙することができたことが、強くなれた要因のひとつだと思います。

もちろん、尾崎さんがご主人のいうような『ダメな妻』などではなく、長年にわたり、精一杯にご家族を支えてこられたことは、立派に成長された2人のお子さんを見れば疑いようのない事実です。

その後、尾崎さんは無事に離婚が成立し、現在は、ご自宅は売却されアパート暮らしだそうですが、お仕事も始められていて、離婚したことでかえって元気になったと話しておられます。

尾崎さんの事例にみられるように、夫の浮気はとても辛い出来事ではありますが、離婚が必ずしも不幸だとか、人生の失敗とは限りません。

妻として理不尽な苦しみを強いられている場合は、ご自身の権利と尊厳を守るために、しかるべき手段を講じ、夫婦関係の清算が必要なときもあるのです。

でも、ある意味「離婚は一発勝負」です。

その時の感情だけで判断したり、ご自分だけの思いで行動するのではなく、それぞれの専門家を味方につけて、十分に準備をしたうえで、あなたの幸せにつながる離婚を実現していくことが大変重要です。