「牧口さん、アスペルガーって遺伝するんですか?」
ご相談中のM子さんから、こんなご質問をいただきました。
М子さんは、「父がアスペルガー症候群で、母との夫婦仲が悪くて喧嘩が絶えない」と悩んでおられて、たびたびご相談をくださっていました。
そして、アスペルガーは遺伝する、という記事をネットで見て、娘である自分にも、それが当てはまるのではないかと心配になったようでした。
たしかにアスペルガー症候群は遺伝的な要因も大きいとされていて、父母のほうにアスペルガー症候群の方がいれば、遺伝として子どもに引き継がれる確率が高いとされています。
ただ、その確率も解析されていませんし、実際、父または母がアスペルガー症候群だから子どもも必ずそうなるというわけではありません。
また程度にも差があって、日常的な生活の中ではまったくその兆候が見られない方もいます。
私がお話を伺っている限り、М子さんにはアスペルガー的な兆候はまったく見られず、むしろ人一倍親御さんのことを心配して、父母の間に入って仲を取り持っている、といったご様子でしたので、あくまでも私なりの客観的な見解として、「М子さんに、その兆候は見られません」とお話させていただきました。
(それまでは相当ご不安だったらしく、ずいぶんほっとされていたご様子でした)
ちなみにアスペルガー症候群は、自閉症スペクトラム障害に属する疾患です。
(自閉症スペクトラム障害とは、自閉症やアスペルガー症候群などを一つのグループとした精神障害の診断名のひとつです)
これは、アスペルガー症候群は、いわゆる「発達障害」の一種で、生まれる前から脳に先天的な障害があり、発達しなかった部分があるために生じます。
それは脳の中の「海馬」と呼ばれる部分で、一般的には物事を記憶したり、空間認知力に関係した部分として知られていますが、アスペルガー症候群においても、この海馬の発達に障害があったために発症するといわれています。
専門的にいうと「海馬回旋遅滞症」というものです。
よく、アスペルガー症候群は生まれた後の親の育て方によってなるとか、幼少期の経験や環境によってなるという話を聞くことがありますが、あくまでも先天的な原因によるものです。
ただ、アスペルガーの父親または母親の下でそだてられた子どもは、親の性格や教育方針の影響を直接的に受けるため、親に似かよった思考や性格形成に傾きやすいところはあるかもしれません。
そもそも自閉症スぺストラム症候群の発症原因は、いまだにはっきり解明されておらず、わからないことのほうが多いです。そのため、「ある日突然原因なく発症する」とか、「妊娠中に何らかの異常から発症する」とか言われることもありますが、それ自体も「可能性があるかもしれない」という程度のものです。
遺伝についてもあくまで要因のひとつという認識でよいと思います。